名古屋医報 平成9年1月号 掲載内容 

  新春座談会  インターネットと医療情報システム   
                     
  出 席者 愛知医大 産婦人科助教授  鈴木 正利
(医) 若葉台クリニック院長  鈴木 信子
名古屋市医師会会長  瀬尾 淑郎
名古屋市医師会理事  小池 勉
名古屋市医師会理事  水谷 武彦 (司会)
                    
 
                                                                                      
 平成7年秋、ウィンドウズ95が登場して以来、インターネットの普及はめざましいものがあります。また、名古屋市医師会の医療情報システムも着々とすすめられています。今日は、お正月ということで、現在の状況、そして未来の夢について大いに語っていただこうと思っています。お客さまには、名古屋でいち早くホームページを自作された若葉台クリニックの鈴木ご夫妻先生、医師会側より妹尾会長、医療情報システム担当の小池理事にご出席していただき、司会は私、広報担当の水谷が務めさせて頂きます。 
 
司会 まず、会長にお聞きしたいのですが、「インターネットと医療情報システム」について、現在どのようにお考えでしようか。

会長 名古屋市医師会も平成8年4月から、双方向FAXサービスを始めましたが、なかなか会員の皆様に利用していただけないのが現状です。各医師会もインターネットをぽつぽつ始めたようですね。まあ、医師としても文献の検索とか学会の資料を集めるには便利だと思います。医師会としては、医療情報を早く流したい訳で、特に診療報酬とか、医療法とか、医療審議会とか、医療保険審議会とか、いろいろの情報が錯綜していますのでそれに対して名占屋市医師会はどのように対処していくかが問題ですね。地域の医師会がしなくても、日医に従えばいいという話もあるんですが、それでは会員か納得されませんから、できるだけ医師会情報を早く流したい訳で、そうした面からインターネットも必要かなと思っています。

司会 では、鈴木先生に、いつ頃からインターネットを始められましたか。

鈴木正 家内のクリニックの方は、平成8年3月からですが、愛知医大の方は平成7年秋に学内LANが構築され、医局や研究室で使用できる環境になりました。名大ではもっと早く学内LANが構築され、各種情報や各教室のホームページが掲載されています。この一年余りでイントラネットを含めてインターネットは大学では普及期にはいったといわれています。

司会 いつ頃からホームページを作られたんですか。

鈴木正 平成8年6月6日に最初の画面をインターネット上に出しました。下準備は5月の連休に構想を練りまして、3週間位で作りました。非常に簡単にホームページが作れるソフトを2万円ちょっとで大須のアメ横で買って、簡単にできました。その後、少しずつ改良して現在の姿になっています。

司会 ホームページをお作りになろうとした動機は。 

鈴木信 当院は日本最初にパソコンとプッシュホンによる自動予約システムをNTT−ITと共同開発して、平成3年10月より運用していて、全国の小児科の中ではそれなりに有名になっていて、問い合わせも多くこれをインターネット上で紹介したかったからです。

司会 次に小池理事に、医療情報システムについてお聞かせください。

小池 現在、行っているのは、まず、双方向FAXシステムです。FAXシステムには名古屋医報、日医ニュースが入れてあります。本当は日医、県医師会のデータベースがあればもっといいのですが。それから、病診連携、これは名古屋は20病院ですね。基幹病院がありまして、こういうの連携に、今はFAXでやっていますが、これをパソコン通信かそういう形にもっていきたいと思っていますが。しかし、調査しますと、名古屋市医師会員の95%がFAXを持っているのですが、パソコンはまだ50%くらいです。医師会としては会員全体の利益のために動くという基本的な考えを持って、双方向FAXを考えたわけです。それと、今の医療連携ですが、県医師会の委託で第二日赤で当直の先生の勤務体制がわかるようなシステムを作ったのですが、実際には1つの病院だけではあまり意味がないですから、20病院全部が同時に医療連携システムに参加出来るといいと思って、そうした形を目指しています。その他に、看護学校の図書館の3万から4万冊全郁にバーコードをつけて、貸し出しのシステムも作りました。

司会 愛知県医師会もインターネットを始めたようですが。

小池 申し込み書を各区に配ったのですが、まだ、あまり理解されていないようです。

鈴木正 残念ですが、現実はそうなんですね。

小池 現在、愛知県医師会はインターネットではなくて、イントラネットなんです。

鈴木正 それは非常に先見の明がありますね。医師会員同志が自由に発言出来る訳ですから。  

小池 それから、愛知県がんセンターに繋がり、インターネットまで繋がるということです。

鈴木正 なるほどね。

小池 県医師会にサーバーを置くということになると、例えば豊橋の先生はアクセスポイントがここだけなんですね。

鈴木正 それは、まずいですね。まず、インターネットで一般の方も見られる第1画面に入り、医師会員は自分のIDとパスワードを入れたら、イントラネットの第2画面に入れるようにすれば、医師会員のみが見たり、発言できるようになります。東大のUMIN(ユーミン)は、そうしています、また東大の図書館にも入れます。

小池 参考になりました。

司会 平成8年10月29日に、インターネット講習会がありましたが、どうでしたか。

小池 21名の方が参加されました。事務の方がこのうち6名いました。本当の目的は、接続の技術的な問題も練習したかったのですが、大変設備が良くて電源を人れたら、すぐ繋がりました。

鈴木正 それで、いいんです。千種区の医師会の有志の先生方は、すでにインターネットの勉強会をやりだして、セッティングとかプロバイダーとの接続を業者にやってもらって、電源をいれたら、すぐ繋がるようにしてもらう予定だと柵木区会長から聞きました。

司会 鈴木先生のホームページはどんな方がアクセスしているのでしょうか。

鈴木正 患者さんはほとんどアクセスしていないのが現実です。家内の小児科の患者さんのアンケート調査でも、1,000人ちょっとの患者さんで、自宅にパソコンがあってインターネットに接続している家庭は3軒だけでした。アクセスするのは、ほとんど医療関係者、そして私たちの友人で、「久しぶりにお前の顔を見た」(笑)というメールもありました。名大小児科や産婦人科関係の先生が紹介・リンクして下さっているため、ひと月800人位アクセスされます。

司会 診療の自動予約のことですが、それは患者さんに、理解されて利用されているんでしょか

鈴木信 再診の殆どの患者さんが利用されています。現在は85%位の方が予約で来院されています。診察券番号と子供の生年月日さえいれれば予約ができます。ただ、お年寄りには難しいでしょうね。そうした場合や急患の場含は、一般電話でも受け付けてあげます。小児科の場合、3日後に予約を取っておいても熱が下がれば来ないわけで、当日予約のみで運用しています。予約システムのゾロ品(笑)も4社出てきましたので、それなりの需要があったのだと思っています。

司会 では、小池先生に、名古屋市医師会も将来ホームページを作るお考えでしょうか。

小池 やはり、県医師会がある全体構想をもって、そのなかで名古屋市医師会というものがやっていかないとい けないということで、まあ遠慮している訳じゃないですが、これからは考える時期だと思います。まあ、ホ一ムページを作るとしたら、なるべく写真は省いて文字で医師会の情報を皆さんにお伝えする方がいいだろうと思います。写真があると読み込みの時間がかかり過ぎますから。

鈴木正 大きな写真はいけないですね。小さく縮小するとスピードがでます。そこをクリックすれば、大きい画面になるような手法をとるべきです。妹尾会長の写真も小さく入れて、そこをクリックすれば、大きな写真が出て、挨拶の文も出るようにすると良いでしょう。、

小池 文字だけだと、読んでくれないかもしれませんね(笑)。ホームページを作る時の問題はですね、県医師会のりンクの中に名古屋市医師会をいれるのか、それとも名古屋市医師会で別にサーバーを作る方法がいいのかということですが。

鈴木正 予算次第でしょうね。一番いいのは、名古屋市医師会単独でサーバーを作られた方がいいと思います。立ち上げに金はかかりますが、多分ハードだけなら、200万円前後でいくと思います。

会長 情報システムの予算としましてね、まあ、そこそこの予算がありますので、それで代議員会のお許しがあれば、イントラネットで300万円くらい考えているんですけれど。

鈴木正 ウィンドウズNTのサーバーでやるといいでしょう。NTはバージョン4.0の日本語版が新しく出て使いやすくなり、サーバー機もお値打ちになってきています。UNIX機は実績も多く安定性は高いですが、立ち上げは専門家でも大変です。300万円あれば、イントラネット付のウィンドウズNTのサーバーが運用できます。

小池 それで、もう一つは、ホームページ作りですね。その、中身の検討がいるんですが、それを広報の方でやっていただこうと願っているんですがね。

司会 分かりました。では、次に、鈴木先生のホームページには、リンクしたところがたくさんあるんですけれど、これは先生ご白身が利用されるためのものですか。

鈴木正 これは、家内用です。残念ながら家内はコンピューターには余り強くないため、診察机の上のパソコンの電源を入れてインターネット用ソフトを立ち上げると、自動的に当院のホームページが出るようにしてあります。色々なホームページをリンクしてありますので、名大の小児科にも、東大の小児科にも入っていけます。名大の小児科では最新の勤務表一覧も出てきます。そういう意昧で非常に家内が使い易いようにホームページを作成してあり、マウスだけで色々な情報がとれるように工夫しました。

司会 信子先生、使い心地はどうですか。

鈴木信 私はマウスをさわるだけで、他は全然さわらなくても希望のぺ一ジヘすぐ入って見られるので重宝しています。診察机の上のパソコンは電源を入れっぱなしで、スクリーンセーバーの星の王子さまとかディズニーのアニメが使用しないときは出ていますので、小さい子は喜んで見ています。診察中は子供だましの機械になっています。(笑)

司会 先生のおすすめのホームページは。

鈴木正 東大医学部にUMIN(ユーミン)というのがあって、そこが全国の医科大学にリンクしていますし、医療関係者はIDとパスワードを入れれば、第2画面に入っていって、いろんなディスカッスの画面に人れます。昨年の夏のO−157では詳しい症例報告も流れていました。登録すれば、開業医も無料でUMINの会員になることができます。それから、米、英では、無料のMedline検索を提供しているホームページが何カ所かあり、当院のホームページでも紹介してありますので文献検索には非常に便利です。日本ではまだ、無料で文献検索をさせてくれるところはないんです。

会 長 日医でも検索サ一ビスをやっていますか。

鈴木正 ええ、知っています、ただ、それはFAXですね。

会長 そうです。インターネットではないのですが、無料ですので、日医の会員の皆様に利用していただきたいと思います。

鈴木正 FAXでやらなくても、インターネットなら、数秒後に抄録つきで同じ10円で出てきてしまいます。ただ、日本医学中央雑誌はまだインターネットに対応していないため、大学の図書館や日医にお願いするより仕方ない状況ですね。

司会日医では、まだホ一ムページは作らないのですか。

会長 もう、アドレスも作って持っているのですが、まだ正式にオープンしていないようです。(注:平成9年4月より日本医師会のHPは正式にオープンされています)

司会 インターネットは情報の収集に非常に便利ですが、そうしたものが発達すると医学雑誌とか学会誌など減ってくるでしょうか。

鈴木正 私白身、現在商業雑誌などの編集もお手伝いしていますが、出版社は戦々恐々としています。外国ではすでにHarrisonの内科書やNelsonの小児科学はCD−ROM化されています。日本でも医学書院の「今日の診療」がCD−ROM化されていますね。ただ、まだしばらくは印刷された本とCD−ROMが共存すると思います。1996年のハーバード大学学長の卒業の祝辞は、今後はインターネットを含めて、マルチメディアを如何に駆使するかを説いています。

司会 医師会として、インターネットをどのように利用すればいいのでしょう。

鈴木正 現在、普及率からすると小池先生の構築されたFAXを利用するのも良いと思いますが、ただ、私もやってみたのですが使い勝手が悪いですね。やはり、タイミングを見ながら、医師会の先生もインターネットが使えるような状況にあと少しでなると思いますので、時期をみて立ち上げて良いのではないかと思います。そうすれば、会員の先生にアップトゥデートな情報や通達を送れるわけです。最終的に電話やFAXによる通達はインターネットを初めとしたマルチメディアに統合されてしまうでしょうね。

司会 名古屋市医師会のホームページが出来たとしたら、名古屋医報とどのように使い分け、機能的にはどのように考えればいいですか。今のところは、同じものを載せようと思っています。インターネットには電子メールというのがあり、情報交換、意見などに最適ですが、どのように思われますか。

鈴木正 家内は東北大学小児科のメーリンググルーブに入っていますが、そこからメールが毎日2,3通入りますね。それで、O−157のこととか、今だとエアーバッグのこととか、いろんな話題がどんどん入ってきます。私には産婦人科とか、いろんな人からメールか入ってきます。電子メールの一番特徴というのは、ある特定の個人に迷惑をかけなくて連絡がとれることです。電話だと、忙しい最中に掛けられたりして困る時もあるわけです。ただ、電話の良いところは、その場で両者の話し合いができて、じゃ、こうしましょうという結論が、すぐ出ます。FAXも相手に迷惑をかけない点は電子メールと同じですが、他人に見られてしまう可能性や、行方不明があり、これが欠点だとされています。電子メールもFAXも、その場では結論がでない、タイムラグが発生するのが欠点ですが、急がない用件の時は非常に楽ですね。また、電子メールには相手のコンピューターに間違いなく配達されたかどうかが分かる配達証明機能もオプションで付いていますので、プライバシーの点も含めてFAXよりも優れていますが、本当にその方が読んだかどうかの確認はまだ取れないのが欠点です。(注:EudoraPro 3.0J同士間では読んだことの確認メールを相手に自動発送できます)

司会 ホームページで、医療関係でいきすぎた宣伝とか、他人を誹諺するような、目に余るような記事がありますが、そうしたことにどのように対処すればいいんでしょうか。

会長 理事会でもそれは問題になりましたが、対処の仕方もわからないのですが、 鈴木先生はどのようにお考えですか。

鈴木正 勝手に発信してくるわけですから、難しいですね。それを信じるかどうかは、各個人の判断にある程度ゆだねられる部分もありますし。

小池 おかしなホームページが、同じ医学のテリトリ一に入れられると困りますね。

鈴木正 そういうのが出たら、これはこうだという反論を出すことと、ある程度の内部規制をかけるしかないでしょう。

司会 最後になりましたが、インターネットと医療情報システムの将来の展望とか夢などについてお聞かせください。

鈴木正 これは、あくまでも名吉屋市医師会の会員に便利な情報伝達手段を考えてあげるということが一番大切な観点だと思います。会員か追いつけないような高度なことをやってもいけません。会員レベルに合わせて、タイミングよく便利で使い勝手の良いホームページを作ることだと思います。

鈴木信 私のように、パソコンを全部セッティングしてもらって、マウスだけで操作できるようにしていただければ、多くの会員の皆様もお使いになれるんじゃないでしょうか。本当に便利ですから。

小池 会員の同意が勿論必要ですし、すぐ使えるように設定が出来ることも大切だと思います。サーバーを独自でやるか、愛知県医師会を借りるかも検討しなければいけないと思います。

会長 今日は皆さんのお話を聞いて、大いに参考になりました。今は、正に情報化時代です。会員の皆様にとってプラスになるよう、前向きに検討したいと思います。 

司会 今日は、長時間にわたりありがとうございました。近い将米には、インターネットと医療情報システムが十分に活用される時代がくると思います、本日はありがとうございました。

              (平成8年11月初旬に座談会開催、平成9年1月1日で掲載さる)

 

 付録 インターネット用語解説 

(インターネット)アメリカが軍事目的で作ったコンピューターネットワークが全世界に発展したもの。 
(ウィンドウズ95)パソコンを使うための基本1ソフトのひとつ。 
(ホームページ)World Wide Web(WWW:世界に広がった蜘蛛の巣)にアクセスした時の画面。
(LAN)一つの組織で、パソコン同士を接続する通信ネツトワーク。
(イントラネット)特定の人だけが利用できるインターネット。
(サーバー)情報やサービスを提供するソフトの入ったコンピューター親機。
(UMIN )University Medical Information Network  大学医療情報ネットワーク。
(プロバイダー)インターネット接続業者
(リンク)あるホームページから他のホームページヘつながっていること
(ウインドウズ NT)Win95よりもネットワーク機能が優れた業務用ソフト。
(UNlX)大学関係で使われ、インターネットのホストコンピュー夕ー用としても信頼性が高い。
(スクリーンセーバー)長時間、同じ画面のままだと画面が焼き付くので、それを防ぐためのソフト